コラム連載:元スクーデリア編集長上野和秀 第3回:フェラーリF8トリブートを見てきました

TEZZO CARS
2019.07.11

■フェラーリ最新の8気筒ミッドシップ・ベルリネッタ

3月のジュネーブ・ショーでお披露目されたフェラーリF8トリブートは、現在最も注目されているスーパースポーツといえる。先頃日本でも報道関係者向けの発表会が行われ、個人的にも興味があるクルマだけに参加してきた。

現在もF1で闘い続けるフェラーリというブランド力は、誰もが知るクルマ界の頂点に位置するといっても過言ではあるまい。その中で主力となる8気筒ミッドシップ・ベルリネッタは、フェラーリを代表するモデルだけに常に時代をリードするテクノロジーが採用されてきた。

今回お披露目されたフェラーリF8トリブートを一言でいうと、前モデルとなる488GTBのビッグマイナーチェンジ版。488ピスタで初採用された見えないフロント・ウイングといえるSダクトを採用し、488 GTBで採用されたブロウン・リヤスポイラーは進化して受け継がれ、空力面を徹底的に突き詰められている点が特徴である。

エンジンは488ピスタ用をベースにするが、新たにスタートしたEUの厳しい排ガス規制と騒音規制をクリアしながら最高出力は488ピスタと同じ720psを発揮する。しかし、冷静になって考えると720psというパワーは昔のF1マシン並みといえ、誰もが乗れるロードカーとは思えぬ数値だ。ちなみに近年のフェラーリ8気筒ミッドシップ・ベルリネッタの排気量とパワーを比べてみると次のようになる。

1994年 フェラーリF355 3495cc 380ps

1999年 フェラーリ360モデナ 3586cc 400ps

2004年 フェラーリ F430 4308cc 490ps

2009年 フェラーリ458イタリア 4499cc 578ps

2015年 フェラーリ488GTB 3902ccターボ 670ps

360モデナまではヒトの感覚が追い付くパワーと速さだったが、F430からはもはや意識を越える異次元の速さになってしまい、この頃から左右のトルク配分を制御する「e-diff」やトラクション・コントロールが採用されたが、まだデバイス量がわずかで乗ってもそれほど不自然さを感じなかった。

しかし578psを発揮する458イタリアになると、技術の進化もあり普通の人でも安全に乗れるようにパワーと駆動力を積極的にコントロールするようになり、状況によってパワーを抑えてしまうので、本気で走っていると肩透かしを食らってしまうことが多々あった。ターボになった488GTBも同様で、クルマにコントロールされていて、その許容内でドライブすることになる。

現時点ではF8トリブートを見ただけで、乗るのはおろかその排気音も聞けてはいないが、トラクション・コントロールを始めトルク・ベクタリング、コーナリング中のブレーキ制御などのデバイス満載で、720psを容易(安全)に楽しめると謳われている。しかし、デバイスをカットした状態で実際に乗りこなせるのは一握りのオーナーに過ぎないだろう。

かつて太田哲也さんがル・マンや全日本GTシリーズを闘ったフェラーリF40は、ロードカーで2936cc+ターボから478psを発揮して当時話題になった。今のスーパースポーツに較べればローパワーだが、ドッカン・ターボで走行安定性を高めるデバイスは一切備わらず、本気で走ると真剣勝負するようなクルマだった。しかしターボラグを消してトラクションを掛けて立ち上がる走りが決まった時の快感はまさにドライビングの真髄と、太田さんが語っていたことを思い出した。

デバイスだらけのF8トリブートを見て感じたのは、走りを楽しむファンにとっては、自らがほとんどをコントロールでき、ちょっとしたミスはクルマがカバーしてくれる仕立てがベストといえるだろう。そこで思い浮かんだのがTEZZOが手掛けるコンプリートカー達だ。あくまでもドライバーが主役であることが前提で許容範囲の広いセッティングに仕立てられ、コントロールする楽しさが残されているからだ。

やはり走りを楽しむクルマは、ドライバー・ファーストでなきゃ、と最新型のフェラーリを見て改めて思わされた。

text : Kazuhide Ueno(上野和秀)