コラム連載:元スクーデリア編集長上野和秀 第2回:そこにはアバルト本来の乗り味があった

TEZZO CARS
2019.06.13

■アバルト124スパイダーの原点は

2016年に発表されたアバルト124スパイダーがオマージュとしたのが1972年に登場したフィアット124アバルト・ラリーである。フィアット・グループ入りしたアバルトは、レーシング・マシン開発技術の高さを買われ、国際ラリー用マシンの開発を任される。そこで製作されたのがフィアット124スパイダーをベースに、実戦的な変更が施されたフィアット124アバルト・ラリーだった。1973年からWRCに挑み第7戦のポーランドで念願の初優勝を成し遂げ、ヨーロッパ・ラリー選手権(ERC)でも活躍しアバルトの存在を知らしめた。

■アバルト124スパイダー登場

こうしてアバルトの歴史を創り上げてきたフィアット124アバルト・ラリーを現代のラインナップに蘇らせたのがアバルト124スパイダーなのである。アバルト500と同様に往年のスタイリングを現代的解釈でまとめ上げたもので、ベテラン・ファンには懐かしさ、若いファンの目にはどのクルマとも似ていない新鮮な姿に写ったに違いない。

ご存じのようにアバルト124スパイダーのベースとなったのはマツダ・ロードスター(ND)。アバルトに限らず、フィアット・グループとして初の日本車とのコラボモデルで、基本的なクオリティと信頼性の高さが魅力だ。しかしアバルトの名を冠するだけに、パワートレインはアバルト500系で使用されている1.4リッター・ターボ・ユニットが積まれている。

初めてノーマルのアバルト124スパイダーに試乗した時のこと。エクステリアはアバルトっぽくなっていて好ましかったのだが、ドライバーシートに収まるとインテリアの眺めが寂しかった。イタリア車のイメージを期待して乗ると、目の前に広がるのはNDロードスターとほとんど変わらない光景で、まじめすぎで色気が感じられないのである。なんか、これだけで20PSほどパワーダウンした気になってしまった。また余談だが、ウインカー・レバーがNDロードスターと共通で日本車式の右側にあるため、アバルトという意識で乗っていると曲がる時にワイパーを動かしてしまうことが多々あった。

■TEZZOが手を加えると

ノーマルのアバルト124スパイダーは完成度が高いため誰にでも楽しめるのだが、クルマ好きにとっては刺激が足りなく感じてしまう。往年のアバルトが持っていたパワー感の「毒」が無いのである。TEZZOが手掛けたアバルト124スパイダーは「大人が乗って日常に使えるデイリー・スポーツ」をコンセプトに開発されたもので、メカニカル・パーツとアクセサリー・パーツで構成される。メカニカル・パーツはエンジンフィールに直結するDTT ECUチューンと、スロットル・コントローラー、スポーツマフラーが中心となり、「毒」もいい感じに注入される。

これらを組み込んだTEZZOのデモカーに乗ってみると、ノーマルにあったモッサリ感が消えて、意のままにパキパキと走れるように変貌を遂げていた。ECUは理論空燃比に近づけることによりトルクと燃費性能が向上し、レスポンスの良さも突き詰められているだけに、エンジンが右足に直結したようなナチュラルな感触が美点だ。

また車検対応のTEZZOオリジナルのスポーツマフラーにも注目。パッと見るとノーマルと変わらないように思えるが、テールパイプは大口径でロングになり、リヤスカートの切欠きにもタイトに収まってリヤビューを引き締めてくれる。

注目のスポーツマフラーの音量だがアイドリング時は静かで、早朝深夜の住宅地での出入りで気を遣う必要はなさそうだ。走り出してスロットルを大きく開いてゆくと、澄んだエグゾースト・ノートがアバルトらしいドライビングを演出してくれた。

なお、これらのプログラムはスポーツ・モードで使用することを前提で開発されているので、切り替えることお忘れなく。

メカニカル・パーツはこのほか全長調整式車高調キット、ブレーキパッド、ステンメッシュ・ブレーキホース、鍛造アルミホイールが用意されており、より正確で思うままにコントロールできるリニアな感触を持つマニアックな1台に仕立て上げることができる。

またアクセサリー・パーツもアバルトの色気を盛り込むためには欠かせない。用意されているのはレザーとカーボン製を中心としたインテリアとエクステリア用で、カーボンをメインしてレーシーにまとめてもよく、あるいはレザー・アイテムを効果的に組み込んでイタリア車らしい色香のある雰囲気で仕立てることが可能だ。

アバルト124スパイダーを所有、あるいはこれから手に入れようと考えているオーナーにとって、TEZZOの専用パーツはアバルトらしさをより引き出してくれるだけに、走りと雰囲気を高めたい方に見逃せない存在となろう。

 

text : Kazuhide Ueno(上野和秀)